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クローズアップ藝大 - 第一回 大巻伸嗣 美術学部彫刻科教授

連続コラム:クローズアップ藝大

連続コラム:クローズアップ藝大

第一回 大巻伸嗣 美術学部彫刻科教授

クローズアップ藝大では、国谷裕子理事による教授たちへのインタビューを通じ、藝大をより深く掘り下げていきます。東京藝大の唯一無二を知り、読者とともに様々にそれぞれに思いを巡らすジャーナリズム。月に一回のペースでお届けします。

こんにちは。国谷裕子です。「『クローズアップ藝大』始めませんか?」提案してきたのは美術学部の箭内道彦教授でした。

”最後の秘境”とも言われ、なかなか外から中が見えない東京藝術大学。大学で教鞭をとっている先生をインタビューして藝大をもっと外の人に知ってもらおうというのです。これまで足を踏み入れたことのなかった大学の中に深く入り、どんなアーティストが何を教え、どのように学生と向き合っているのかをお伝えしようと思います。

一回目は彫刻科の大巻伸嗣教授です。


東京藝大の彫刻棟は美術学部キャンパスの奥まったところにあります。重い扉を開けると中から機械で木を削る音がしています。大きな作品を作るスペースを確保するために一階の天井はとても高い。二階まで階段で登り廊下を奥まで進むと大巻教授の部屋がありました。

なにやら作業中らしく部屋の半分ほどのスペースがビニールで覆われていました。窓辺に近づくとコンクリートで作られた長さ3メートル余りの深いバスタブのような入れ物があり、中にはごろごろと乾いた粘土が入っています。「ここは粘土槽です。人体像を作るために、歴代の先生方が使った粘土。いろんな地域からの土が最も良い配分で混ぜられ、ここに水を入れて2週間ほどスコップや手などを使いながら混ぜると創作の材料が出来ます。この粘土には先生たちの霊も宿っているかもしれない。」と大巻先生は笑い、ここから対談が始まりました。


文化や伝統は、お金で手に入らない

国谷

大巻先生は、最近はどんな活動をされていますか?

大巻

最近ではマカオで仕事しましたね。あの新国立競技場で話題になったザハ・ハディドさんがデザインしたホテル「モーフィアス」を建てるので、廊下をデザインしてほしいという依頼があったんです。

「モーフィアス」館内『Echoes Infinity』

「モーフィアス」館内『Echoes Infinity』

ザハさんの建築デザインは、柱というか軸と軸の間に空間があり、植物のようだなと感じたので、植物を描きました。昔の日本をほうふつとさせるような、伝統、歴史を感じさせるものにして。実は、それは、ちょっとした皮肉なんです。マカオは今お金があって手に入らないものはないように思えるけれど、文化や伝統だけは手に入れることはできない、というね。

50mの廊下ですが、どこが実際に歩ける現実か、歩けない非現実か、鏡によって分からない迷路のようになっていて。現実と非現実が交差する世界。それを作品として見せたいと思いました。

国谷

タイルの上に描かれたのですか?

大巻

アルミ板にキャンバスを貼って描いています。2か月以上かかって。

国谷

迷路のような廊下を歩いてみたいなぁ。

大巻

そういえば、オランダのイレブン・ファウンテンのアーティストに選ばれて、街にファウンテンを作りにいったこともありました。世界中から11人が選ばれ、その一人として行きました。

国谷

ファウンテンというのは噴水のこと?

大巻

そうです。オランダはスピードスケートが強いですが、行ってみるとその理由がよく分かります。冬は川が凍るのです。その凍った川で、皆でアイススケートを楽しむ。オランダには、11の都市をアイススケートで巡るという昔から続く冬の伝統行事があり、観光客が多く集まりました。ただ、最近は川が凍らないことが多くなり、アイススケートに変わるような、なにか伝統を活性化させるものを 作ろうという取組でした。

しかし、ここでも、地元の人たちは反対するんですよ。『このままでいいんだと。よそ者が噴水なんてとんでもない。』と。

後から聞かされたのですが、僕が担当した街は、「11の街で、一番大変な街」と言われていたらしいんです。反対勢力 100 人ぐらいに取り囲まれてのプレゼンでした。

作品を完成させるまでは困難続きでしたが、今では、「噴水を作ったのが日本人だから」という理由で、噴水の近くで空手や生け花のワークショップが開催されているそうです。そうやってコミュニティの中で日本人が役割を持つ。そこがまた重要だと感じます。

11Fountains

皆、なぜか泣いている。『できるとは思わなかった』と。

国谷

先生は各地を飛び回っていらっしゃるのですね。

大巻

今日は、台湾から帰ってきたところです。少し前は大分にいました。大分で古民家を改修したのですが、その古民家に差し込む光が流れる様子が見えるような展示をしました。光は、空気の重さによって速さが変わるし、少しの風で動く。

空気がまるで、龍が立ち上がるようにみえるんです。龍というか神というか。なんのことはない日常の中に、光と闇を使って、その流れを見せる仕掛け作りました。

Photo:Yamamoto Tadasu

大巻

大分での活動は、最初は5人ぐらいで始め、それが市民600人になり、一つの作品を作り上げました。その土地でワークショップを行うことで、地域の人たちがつながっていったんです。

最初は、『おまえ何しに来たんだ』という雰囲気で、協力してくれる数人と、その土地の人であれば皆知っている伝説を聞き回りました。毎晩、お酒を飲みながら伝説の話を聞かせてもらうんです。一人ひとりの語るストーリーが、少しずつ違っていて、1年ぐらいかかって、ようやく、その街の歴史に詳しい人が持っていた本にたどり着きました。

その本をもとに、子どもたちに伝説を読み聞かせたときは、読み聞かせグループが協力してくれました。その伝説をモチーフにして、版画をつくったんです。版画のための下絵は、皆に描いてもらって。2m×10mの下絵で 結局30分くらいしか描く時間がなかったんですが。

版画のための木材は、その土地でとれる杉です。杉を扱う職人さんが関わってくれました。ただ、杉は簡単には彫れない材質です。『大巻さん 彫れないよ。もう無理だ』と泣きつかれても『考えてごらん。』と突き放し、答えは自分たちで見つけてもらいました。

3か月ぐらいは試行錯誤でした。その中でメンバーは、杉を加工している地元の彫刻師を探してきて、その人にレクチャーを頼みました。今まで注目されていなかった杉の彫刻という地元の産業に結び付いたんです。その後、その彫刻師が皆に教えて、リーダー的存在になっていきました。近くでゲームをしていた子供たちも、なんだろうと寄ってきて手伝い始めて、最終的には600人ぐらいが関わった作品になっています。

国谷

規模が大きくて、力強い作品です。

大巻

ありがとうございます。作品ができあがった頃、大分に行くと、皆なぜか泣いているんです。『できるとは思わなかった』と。こちらももらい泣きしながら『なんでできたの?』と聞くと『わからない。無理だと思ったができた』と。

国谷

先生がなさったワークショップは、地域の人たちの結びつきを強めていったんですね。

大巻

コミュニティ再構築。私はそこに注目しています。そのためには外の人が答えを教えてはだめだと思います。

国谷

大分からは、そもそもどのような依頼を受けたのですか?何をやってほしいと言われて?

大巻

大分の国民文化祭があったんです。そこで何かやってもらえないか、と。それで現地に行くと、朽ち果てた遺跡、行政の面白くもない標識、何の説明もない看板、荒れ放題の野原、使われていない民家、腐って黒くなっている畳などがありました。それを見て、人間の古い記憶を呼び起こしてみよう。古いものをそのまま残して何かやってみようと。そんな思いから、古民家を改造してというワークショップを行いました。

旧料理屋「盆地」 / photo: Yamamoto Tadasu