

藝大に教員として着任してからの半年を、なぜかベトナムで振り返っている。つくづく、印象的なことがいくつもあった。
私が所属する大学院国際芸術創造研究科には、多くの留学生が在籍している。博士課程の最初のゼミで、英語話者は英語で、日本語話者は日本語で話し、それぞれが内容を理解し合いながら会話が成り立っている瞬間に驚いた(学生に聞くとそれを「ちゃんぽん」と呼ぶらしい)。お互いの言語能力が高いからこそ成り立つ関係だろうし、私もそのやりとりになんとか加わり、日々のコミュニケーションを充実させはじめている。
8月には、集中講義「芸術と社会 21世紀の社会が求める創造性とは(企業編)」(協力:一般財団法人カルチャー・ヴィジョン・ジャパン)に携わった。企業などからのゲストによるレクチャーやグループワークなどを通じて、就活とは違った回路で企業文化と出会えるプログラムだ。あるエネルギー企業の方がレクチャーで、カプセルに入った実際の原油を壇上で見せつつ「これは太古の歴史の積み重ねでできている」と語った。その瞬間、目の前にある小さな原油のカプセルの中に、人間の時間尺度をはるかに超える地球の時間と、その資源と向き合ってきた企業の歴史とが重なり、その連続した時間の上に現在の事業があるという、一つの連続した物語があるように感じられ、深く心に残った。
千住キャンパスを中心に展開する「アートアクセスあだち 音まち千住の縁」にも関わる。現在は11月に実施予定の「Memorial Rebirth 千住 2026 花畑公園」準備のまっただなかだ。特に私は、視覚言語(日本の手話)の中で育まれる感覚や言語を起点とした表現や場づくりを行うグループ「めとてラボ」との連携のプロセスに伴走していて、どのような情報保障ができるか、その上で異なる言語や感覚同士がどう関係を作ることができるのか、試行錯誤が続いている。
「芸術と社会」の様子。学部・研究科を超えてさまざまな所属の学生が集まりました(撮影:久保田夢加)
この3つの場面は、私の専門領域のひとつである「アートマネジメント」を考えるうえでの参照点でもある。異なる想いや感性を抱えた人どうしが出会い、互いに通じ合える言葉を探しながら、対話や表現をなんとか形にしていくこと。「アートマネジメント」は芸術活動の運営・経営という実学の側面だけでなく、異なる人々が関わり混じり合う活動を「なんとかうまくやっていく」ための調整や翻訳の技術という側面もあるのだ。
音楽学部音楽環境創造科の卒業生として初めて専任教員として戻ってきたこともあり、歴史や責任の重みも感じる日々である。社会がグローバルにもローカルにも急激に変化している今だからこそ、アートマネジメントの「なんとかうまくやっていく」術をどのように活かし、芸術を通じて今よりも良い世界をどう描けるか、引き続き模索していきたい。
写真(トップ):ベトナムには、大学院国際芸術創造研究科の教員・学生のみなさんと、アーツスタディ・アブロードプログラム(ASAP)という国際連携プログラムの一環で。ハノイ国家大学総合科学芸術スクール(VNU-SIS)との交流の様子。
【プロフィール】
長津 結一郎(ながつ ゆういちろう)
東京藝術大学大学院国際芸術創造研究科アートプロデュース専攻/音楽学部音楽環境創造科 准教授
多様な関係性が生まれる芸術の場に伴走/伴奏する研究者。障害のある人などの多様な背景を持つ人々の表現活動に着目した研究を行なっているほか、音楽実技やワークショップに関する教育、演劇・ダンス分野のマネジメントやプロデュースにもかかわる。九州大学を経て2026年4月より現職。主な著書に『舞台の上の障害者:境界から生まれる表現』(九州大学出版会、2018年)、『アートマネジメントと社会包摂』(水曜社、2021年)など。文化庁・厚生労働省障害者文化芸術活動推進有識者会議構成員、東京芸術劇場運営委員、アートミーツケア学会代表のほか、日本文化政策学会、日本アートマネジメント学会でも役員を務める。研究室ウェブサイト:https://nagatsu.geidai.ac.jp/

(撮影:齋藤陽道)