平成28年度 卒業式(3/27) -それぞれのモットーを心に-
日時:平成29年3月27日(月) 11:00~12:10
場所:奏楽堂
式次第
1. 奏楽
2. 学位記授与(学部卒業生)
3. 学位記授与(大学院修了生)
4. 修了証書授与(別科生)
5. 卒業・修了買上作品認定書授与
6. サロン・ド・プランタン賞授与
7. アカンサス音楽賞授与
8. 大学院アカンサス音楽賞授与
9. 学長式辞
10. 役員等紹介
11. 奏楽
3月27日(月)11時より奏楽堂にて平成28年度卒業・修了式が行われました。
今年の卒業・修了式は、音楽学部 栃本浩規准教授、古賀慎治准教授、及び音楽学部学生8名による奏楽「AGINCOURT SONG」(作曲者不明)が演奏され、管楽器の晴れ晴れしい響きで幕を開け、引き続き澤和樹学長から卒業生、修了生それぞれの総代に学位記が、また別科修了生総代に修了証書が授与されました。
その後会場が暗くなり、ステージ上にスクリーンが現れると、卒業生たちの在学中の思い出が映し出されました。入学当時の初々しい姿や、藝祭で大盛況を博した御輿など、青春のページを飾った数々の写真に歓声や笑いが沸き起こりました。映像の最後に「F.A.E.」の文字が映し出されると、澤和樹学長と迫昭嘉音楽学部長の「FAEソナタ」より「スケルツォ」(ブラームス作曲)の演奏が始まり、荘重な演奏と光の演出が会場を魅了しました。
会場式辞では、「FAEソナタ」の“F.A.E.”について、この曲が捧げられたハンガリー出身の大ヴァイオリニスト、ヨーゼフ・ヨアヒムがモットーとしていたドイツ語の “Frei aber Einsam(自由に、しかし孤独に)”の頭文字であり、F(ファ)、A(ラ)、E(ミ)の3つの音をモチーフに作曲されたことを説明し、「是非、一人ひとりが、それぞれのモットーを心に歩んでいってほしいと思います。若者よ、もっと心にモットーを!」とユーモアを交えて語った後、「芸術は、人間が、人間らしく生きてゆく上で不可欠なものだと思います。どうか皆さんは、この東京藝術大学で学んだことを礎にして、世の中の人々が人間らしく生きてゆくために貢献するのだという誇りをもってさらなる高みを目指してください」と、将来への期待に胸を膨らます若者たちを激励しました。
式の最後には、音楽学部 栃本浩規准教授、古賀慎治准教授、及び音楽学部学生8名により「TRUMPET TUNE AND AIR」(ヘンリーパーセル作曲)が華々しく演奏され、未来へ羽ばたく卒業生・修了生たちを祝福しました。外はあいにくの雨模様でしたが、会場内は未来への希望と熱気に満ちた、晴れやかな卒業式となりました。
卒業生、修了生の皆さん、本日は誠におめでとうございます。
東京藝術大学の職員一同、心からお祝いを申し上げます。また、この日にいたるまで、皆さんの成長を見守ってこられたご家族の皆様に対し、お祝いとともに心からの感謝を申し上げます。
ただいま、音楽学部長の迫先生とともに皆さんに聴いていただいたのは、ブラームス作曲の「FAEソナタ」より「スケルツォ」です。「FAEソナタ」とは、シューマンとブラームス、そしてディートリッヒという3人の作曲家が、共通の友人であるハンガリー出身の大ヴァイオリニスト、ヨーゼフ・ヨアヒムのために1853年に作曲した作品です。
“FAE”というのは、ヨアヒムが芸術家としての自分の生き方、いわゆるモットーとしていたドイツ語の“Frei aber Einsam”これは「自由に、しかし孤独に」という意味です。その言葉の頭文Fはドレミファソラシドのファ、Aはラ、Eはミ、このファ、ラ、ミの3つの音をモチーフとしてそれぞれの作曲家が曲を作り、敬愛するヨアヒムに捧げました。
このように作曲家が、自分の主張や、自らの名前、あるいは愛する人の名前のアルファベットを音符に置き換え、作品の中に息づかせるということはよく行われていたことです。
10年ほど前に「ダ・ヴィンチコード」という推理小説をもとにした映画が大ヒットしましたが、レオナルド・ダ・ヴィンチが、「モナリザ」や「最後の晩餐」などに、当時の権力者に対して秘かに彼の主義主張を残したとする仮説に基づくもので、特に表現の自由が保障されていなかった時代には、芸術や文学でも、暗号のような形で、作者が作品の中に自分の想いを託したのでしょう。
『自由だが孤独に…』というヨアヒムの生き方を皆さんに押しつけるつもりはありませんが、芸術家として、枠に囚われない自由さと、周囲に惑わされず、孤高の存在でありたいという生きざまに、私自身は大きな共感を覚えます。
本日、皆さんは学部を卒業あるいは研究科などの課程を修了し、若き芸術家、研究者、教育者、あるいは社会人として世に出て行かれますが、是非、一人ひとりが、それぞれのモットーを心に歩んでいってほしいと思います。
若者よ、もっと心にモットーを!
(会場:笑いと拍手)
とはいうものの、芸術に携るものにとって、現実の世界は極めて厳しいものがあります。昨年のイギリスのヨーロッパ連合離脱や、アメリカのトランプ大統領の誕生、最近の北朝鮮の情勢など、予測不能な事態が続いています。日本に限らず、社会不安が拡がり、財政状況が悪くなると、芸術への予算が真っ先に削減されるということがよく言われます。こういうときに、よく「芸術や音楽がなくても、生きては行けるからね…」というあきらめに似た言葉を私たち自身が発してしまいがちですが、本当にそうなのでしょうか? 私は、これは「お風呂に入らなくても生きては行けるからね…」と言っているようなものだと思っています。たしかにお風呂に入らなかったからといってそれが原因で人は死ぬわけではありませんが、 それが人間らしい生き方と言えるでしょうか?
芸術は、人間が、人間らしく生きてゆく上で不可欠なものだと思います。どうか皆さんは、この東京藝術大学で学んだことを礎にして、世の中の人々が人間らしく生きてゆくために貢献するのだという誇りをもってさらなる高みを目指して下さい。
東京藝術大学は、今年、創立130周年を迎えます。この機会にこれまで以上に、国際化やダイバーシティの推進、そして藝大130年の伝統の上に立って、科学や医学、スポーツなど他分野との出会いで新しい価値を生み出すことへのチャレンジを通して、学生や卒業生にさらなる活躍の場を提供してゆきたいと考えています。
また、「杜の会」や「同声会」、或いは海外在住の同窓生のネットワークなどの協力を得て、大学と卒業生の結びつきの強化を図りたいと考えています。
大学が卒業生のキャリアを見守り、卒業生が母校や在学生を応援するといった双方向のコミュニケーションによって、「卒業後は行方不明者多数…」などと本に書かれないようにしたいと思っております。大きく変わってゆく東京藝大にご期待ください。そして私たちは皆さんのご活躍を楽しみに見守りたいと思います。
本日は本当におめでとうございました。