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令和2年度 卒業・修了式(3/25)-試練は芸術を育てる-

2021年03月29日 | イベント, 全て, 大学全般

令和2年度 卒業・修了式(3/25)-試練は芸術を育てる-

日時:令和3年3月25日(木)
場所:奏楽堂

式次第
【第1部(学部・別科)】
1.学位記・修了証書授与
2.各賞授与
「卒業・修了買上作品認定」
「サロン・ド・プランタン賞」
「アカンサス音楽賞」
3.学長式辞
【第2部(大学院)】
1.学位記授与
2.各賞授与
「卒業・修了買上作品認定」
「サロン・ド・プランタン賞」
「大学院アカンサス音楽賞」
「ラリュス賞」
3.学長式辞

 

3月25日(月)、満開の桜の下、奏楽堂にて令和2年度卒業・修了式が行われました。

今年度の卒業式は新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、式典を2回に分け、卒業・修了生のみが参加して行われました。

式典では、学位記・修了証書授与と各賞の授与に続き、澤和樹学長と音楽学部渡辺健二教授の共演で、ベートーヴェンの「ピアノとヴァイオリンのためのソナタ第5番 へ長調から第4楽章」が演奏されました。学長式辞では、音楽の力、芸術の力を信じて試練を乗り越え名作を残したベートーヴェンに触れ、「試練は芸術を育てる」と、卒業・修了生を激励しました。

式典の様子はインターネットを通じてライブ配信され、卒業・修了生のご家族にご覧いただきました。

学長式辞

皆さん、ご卒業おめでとうございます。そして各賞を受賞された皆さん、おめでとうございます。 昨年春先からの新型コロナ感染拡大を受けて、特に卒業や修了がかかる大切なこの1年、大きな苦労と試練の連続であったと思います。昨年2月末には、政府の要請を受け、博物館、美術館、ギャラリーが次々に閉鎖となり、大規模なイベントや演奏会は中止や延期を余儀なくされ、芸術に携わる私たちは、ことごとく活躍の場を失いました。4月7日には緊急事態宣言が発出され、大学のキャンパスも閉鎖となり、5月11日にようやく始まった授業もオンラインのみの授業で、実技が中心の藝大生にとっては、オンラインで出来ることには限界があり、大きなジレンマを抱えて卒業制作や卒業・修了演奏に向けて厳しい環境の中でご苦労されたことと思います。

論文のためのフィールドワーク、あるいは近年盛んになっていた海外の大学や研究機関との交流も途絶える中で、指導教員の先生方をはじめとするスタッフ、事務職員の皆様のサポートを受けながら立派に本日、卒業・修了の日を迎えた皆さんに心より敬意を表したいと思います。大変なこれまでの1年間でしたし、まだまだこの状況は半年や1年では終わらないだろうと思われます。しかし皆さんには、これを残念な藝大生時代だったとは思わないでもらいたいと思っています。

先ほど、この3月末で退任されるピアノの渡辺健二先生との共演で、一般に「スプリングソナタ」の愛称で親しまれているベートーヴェンのピアノとヴァイオリンのためのソナタ第5番 へ長調から第4楽章を聴いていただきました。明るく幸福感に満ちた曲想で、ベートーヴェンがピアニストとして、また作曲家として人気絶頂だった30歳頃の作品です。ただ、この頃から耳の異常を感じ始め、2年後の1802年には、音楽家にとって絶望的とも言える難聴の悪化により、有名なハイリゲンシュタットの遺書を残して自殺をすら考えました。

しかしベートーヴェンは音楽の力、芸術の力を信じて克服し、交響曲「英雄」、「運命」、「田園」といった名作を遺した「傑作の森」と呼ばれる時代を経て、晩年のピアノソナタや弦楽四重奏曲、「第九」交響曲などは、人類史上最高の芸術として高く評価されています。ほとんど何も聴こえない状況に置かれるなかで、ベートーヴェンは、心の中の音を探し続けた事で、前人未踏の境地に達したのかもしれません。

先日、たまたまテレビを見ていたら、障害を持つパラアスリートたちが、しばしば健常者を上回る大記録を残していて、そういったアスリートの脳を調べると、障害によって失われた機能を脳の他の領域が補おうとする事によって、大きなパワーを生み、健常者を超えるような結果を残せるのではないかと分析されていました。


私は「試練は芸術を育てる」という言葉を信じています。誰か歴史上の偉い人の言葉ではなく、私が勝手に言っているだけですが・・・・

どうか、皆さんも、この試練を乗り越えることで、何事もなく平穏無事だった1年よりも、さらに大きなパワーを与えられていると信じて頑張ってください。

さて、皆さんの中には卒業・修了とはいっても、このあと、さらに進学する人や、助手や助教としてまだ藝大に留まる人、留学や就職、あるいはそれぞれのアーティスト活動で、藝大を巣立っていく人など様々だと思います。

これまで藝大での学生生活を2年あるいは4年・・・と送る中で、ご自分の専門領域については、先生方や学生同士から多くの事を学び、経験してこられたと思いますが、それ以外の事、すなわち同じ学部であっても、ほかの専攻の事、ましてや他の学部や研究科の事などについてほとんど知らないのではないでしょうか? 私自身の学生時代を想い返してもそう思います。

東京藝術大学は、明治20年(1887年)に東京美術学校と東京音楽学校がこの上野の地に開校され、この2つの専門家養成機関が母体となって昭和24年に新制大学に生まれ変わりました。大学となってからもしばらくは、芸術の創作者、表現者、研究者、教育者の養成といったところが、大学の中心的な使命であることに変わりはありませんでした。しかし近年、とりわけここ数年は、世の中が東京藝大に期待する役割は大きく変化していると思います。

キャッスル食堂がある大学会館は、今、国際交流会館として生まれ変わるため工事中ですが、その左側にある銀色に光る建物はArts & Science Labと名付けられた建物で、東京藝大COI拠点の本拠地です。COIとはCenter of Innovation の事で、大学と企業とのコラボレーションにより世の中に役立っていくイノベーションを生み出す目的で芸術と最先端技術を駆使した様々な取り組みが行われています。先ほど、皆さんがこの奏楽堂に入場された時に上演されていたのはクラシック音楽の中でも特に人気の高い、ヴィヴァルディの「四季」に映像研究科のプロデュースで、世界的な4人のアニメーション作家に音楽に相応しいアニメーションを制作していただきました。さらに企業との共同開発で、AI(人工知能)が生演奏に同期して画像を送り出す上映システムを作り出しました。先ほどお聴きいただいたのは生演奏ではなく、録音した音源ですが、画像の方は、リアルタイムで、その音源に同期しています。演奏家が交替して、微妙にテンポなどが違ってもAIが感知して画像を同期させてくれます。

また、美術学部の伝統的な文化財保存修復の匠の技に高精細のデジタル技術を融合させた「スーパークローン文化財」は、国宝に指定されて門外不出の貴重な文化財を外見だけでなく、素材の科学的な成分分析にまでもこだわった高い次元のクローンを作り出すことで、「保存と公開」というジレンマを解決しています。更に、戦争やテロによって失われてしまった文化財を復活する事で、外交面でも高い評価につながっています。また障害があるために一本指でしかピアノを弾くことが出来ない少女の夢をかなえるために、AIによる自動伴奏機能を開発した「だれでもピアノ」は、今や高齢者の認知機能の向上に大きな効果が期待され、医療や福祉の面でもそれぞれ高く評価されています。

今回、私たちはコロナの影響で、これまでの常識が通用しなくなっている場面にいやというほどにさらされています。それに加え、気候変動問題の解決や持続可能な開発目標と訳されるSDGsなどを実現してゆくには、これまで人類が発展を目指してきた手法を根本的に発想転換しない限り実現できないことです。そのような中、AI(人工知能)の登場とその発展は、人類の課題解決のエースとして期待される一方で、多くの人間の仕事を奪ってしまうという懸念も持たれています。

実は、最近、AIやロボットに取って代わられて近い将来無くなってしまうかもしれない職業と、今後も生き残るであろう職業とを分類したデータを見ました。

アートディレクター、インテリアデザイナー、映画監督、学芸員、グラフィクデザイナー、ゲームクリエイター、クラシック演奏家、ファッションデザイナー、録音エンジニア・・・これらは、生き残る職業として紹介されていました。すべて、藝大が輩出している人材です。また、一般企業も、これまでの企業経営の手法にはなかった新たな発想を求めてアーティスティックな感性を求めているとも聞いています。藝大は、学生や卒業生のキャリア支援を更に強化して世の中のニーズに応え、社会に貢献してゆきたいと考えています。

コロナ禍でオンラインが当たり前になってきましたが、「東京藝大デジタルツイン」が始まりました。バーチャルの空間で、藝大のキャンパスやこの奏楽堂といつでもつながることが出来ます。卒業生の皆さんも是非、リアルで、またバーチャルで、藝大とはこれからもいつも繋がっていてください。

これは日比野美術学部長デザインによる東京藝大「I LOVE YOU」プロジェクトのロゴデザインです。芸術は人を愛する・・・をキャッチフレーズに、AIの時代にこそ、人が作る芸術が大切だ!という思いです。

東京藝大は皆さんに愛を、そして皆さんは是非、これからも藝大を愛していてほしいと思います。 

「藝大愛」と言えば、私は「藝大愛」が高じて、昨年、ついに神奈川県厚木にあった先祖のお墓を、藝大から徒歩5分の寛永寺霊園に移してしまいました。

今後も末永く、草葉の陰から藝大や卒業生の皆さんを応援したいと思っています。若い皆さんの多様性に満ちた今後の活躍を期待しています。

本日は本当におめでとうございました。

 

令和3年3月25日

東京藝術大学長 澤 和樹