澤和樹学長が奏楽堂にゲストを迎える、学長と話そうコンサート「和樹の部屋」。 8月2日(日)、「和樹の部屋 特別篇 May new days come as soon as possible. 〜 新しい日常へ 〜」として開催されました。この特別篇は、6月に立ち上げた「若手芸術家支援基金」のクラウドファンディングにご支援いただいた皆様への感謝を捧げるためでもあり、音楽やステージの上だけでなく、美術、映像の要素も含んだ「オール藝大」で、コロナ禍の困難な状況にある若手芸術家を応援するものです。 客人は、さだまさしさん。若手芸術家支援基金の応援団の一人です。また、8月1日付けで本学客員教授に就任しました。 コロナ感染拡大防止対策のため、1100人収容できる奏楽堂には、観客は70名程度のみ。空いてしまった多くの座席には、大学美術館所蔵の自画像をパネルにしたものが置かれ、若手芸術家たちにエールを送りました。演奏会の客席空間演出や演奏とアニメーションとのコラボなど、音楽のみならず、美術や映像などの分野が集結。クラウドファンディングのリターンとしてオンライン配信も行うこととなりました。 コンサートでは演奏のほか、コロナ禍での音楽や芸術の力についてや、客員教授としての授業の構想などにも話が及び、箭内道彦美術学部教授を進行役に、澤学長、さだまさしさんの、期待を裏切らない軽やかな笑いと、安心感のある温かいトークが繰り広げられ、観客は、空席に置かれた自画像と一緒に、コロナ禍でのオフライン演奏会を堪能しました。 |
「コロナ禍で、奏楽堂に観客を呼べるのだろうか」
オンライン会議で幾度も話し合われました。音楽学部と演奏藝術センターが中心となり、政府や専門家会議の分析や他のホールでの状況を参照しながら、観客、出演者、舞台裏などのスタッフを含め、どうすれば3密を防ぐことが可能か、安全か。様々に浮かびあがる懸案事項を前に、一つ一つ解決策を考え検証する。今まで数多くの演奏会を開催してきた奏楽堂が、その経験を一度ゼロにして考え直さなければならない。大学をあげて、演奏会の再開の可能性を探っていました。
4月に緊急事態宣言が発せられ、5月に解除があったものの、東京都ではどんどんコロナ感染者数が増えて行き、「和樹の部屋」の開催予定である夏にどのような状況になっているのか、誰にも分かりませんでした。
「若手芸術家のために、みんなで何かできたらいいですね。何かお手伝いできたら。」と、学長との特別緊急対談で、こう勇気づけてくださったのはさだまさしさんです。「和樹の部屋」の最初の客人であり、そして、澤学長の熱望により今回もゲストに来てくださることが決まっており、このコロナ禍で芸術に何ができるのかを考えあぐねている中、力強く応援してくれました。
また、演奏会再開に向け背中を押してくれたのは、若手芸術家支援基金のクラウドファンディングに寄せられた温かい応援コメント。6月9日にクラウドファンディングを立ち上げてから、毎日、若手芸術家へのエールが届けられます。
若手芸術家を支援するため、オンライン演奏会の在り方、オフライン演奏会の在り方を慎重に検証しながら芸術の力を大学全体で模索し、ついに「和樹の部屋 特別篇」が8月2日(日)、奏楽堂で開催されました。
【オープニング】 ♪バッハ:《G線上のアリア》 Solo-Vn.澤和樹 Org.廣江理枝
澤学長 セリで登場
宝塚スターのように、昨年同様、セリから登場しました。
1曲目の《G線上のアリア》は、4月に制作した動画「Life.」にて、澤学長がコロナ禍で働く方々への応援として弾いた曲です。そのLife.の副題「May new days come as soon as possible. 新しい日常へ」 は、 今回の「和樹の部屋 特別篇」の副題でもあります。
この「和樹の部屋」のプロデューサーで進行役の箭内道彦教授から、観客と一緒に座っている自画像、平成伎楽団の説明があると、さだまさしさんが、「いつものコンサートでも、舞台から見ていると、平成伎楽団のような方いるの。本当に。」と応じ、会場の雰囲気が一気に和らぎます。
「オール藝大」で取り組んだそれぞれの企画制作には、大巻伸嗣(美術学部教授)、岡本美津子(副学長/大学院映像研究科教授)、桐山孝司(大学院映像研究科長)、籔内佐斗司(副学長/大学院美術研究科教授)、熊澤弘(大学美術館准教授)らが加わり、総合プロデューサーは箭内道彦(学長特命/美術学部教授)が務めました。
客員教授 辞令交付式
8月1日付けで本学客員教授に就任したさだまさしさん。豊かな経験と見識は、東京藝術大学と社会を繋ぎ、文化における新たな局面を創造しようとする本学の活動に大きく寄与するものと考え、本学は客員教授として迎えました。
コンサート中には、辞令交付式のサプライズも
♪さだまさし:《精霊流し》 Vo&Vn.さだまさし Vn.澤和樹 Org.廣江理枝
♪澤和樹:《さだまさしの名によるワルツ》 Solo-Vn.澤和樹 和樹の部屋アンサンブル
♪さだまさし:《柊の花》 Vo.さだまさし Solo-Vn.澤和樹 和樹の部屋アンサンブル
5月に発売されたさだまさしさんのアルバム「存在理由~Raison d’être~」。アルバムの最初の曲は、昨年の「和樹の部屋」にて、澤学長がサプライズとして作曲した《さだまさしの名によるワルツ》。更に、同アルバムに収録された《柊の花》には澤学長のヴァイオリンソロがあり、「渡辺俊幸さんの編曲が、とても素晴らしくて、超絶技巧で難しかったですが、レコーディングも楽しみながら演奏できました。」と澤学長。今回のコンサートで初披露されました。
和樹の部屋アンサンブルは、藝大フィルや卒業生で構成された未来を担う若手芸術家たち。コロナ禍で活躍の場を奪われた若手芸術家たちを応援するため、演奏者、編曲者、舞台裏で若手芸術家のスタッフたちが活躍する。互いに応援しながら、応援されるコンサートです。
《アニメーション上映》「天までとどけ」
コンサート中頃には村田朋泰(大学院美術研究科修了生)監督・制作の「天までとどけ(作詞・作曲・うた:さだまさし)」アニメーションが上映されました。
♪さだまさし:《存在理由〜Raison d’être〜》 Vo&Gt.さだまさし
♪さだまさし:《償い》 Vo&Gt.さだまさし Solo-Vn.澤和樹
演奏は《存在理由〜Raison d’être〜》 に続き、《償い》が披露されました。《償い》は、交通事故の加害者の誠実な謝罪と、被害者の許しが描かれています。社会の課題に直面した時、解決に向けて何ができるか。芸術がどう関われるかに話が及びます。
「コロナ禍で、美術館やコンサートホールが閉鎖。予定していた展覧会、音楽会は延期又は中止となり、若手芸術家を中心に経済的にも不安定な状態が続いています。在学生・卒業生が芸術活動を続けていくために、若手芸術家と一緒に新しい芸術の在り方を考えていくこと、新しい作品づくりに希望と金銭的余裕をもてるように後押しをすることを進めていきたい。」と澤学長。
さだまさしさんからは、「困っている若手芸術家を支援していきたい。コロナ禍や災害などで傷つく人にとって、音楽は微力であるかもしれない。しかし、芸術は人を笑顔にさせたり、人の涙を誘ったり、心に染み入る。そして、それを待っている人がいる。」と社会における芸術の必要性についての話がありました。
【フィナーレ】 ♪さだまさし:《風に立つライオン》 Vo.さだまさし Org.廣江理枝 和樹の部屋アンサンブル
大きな拍手と共に、コロナ禍での新たな若手芸術家支援への第一歩を踏み出し、コンサートは幕を閉じました。
【自画像 客席展示】
コロナ禍での活動自粛により、多くの芸術家が経済的な影響を受け、特に厳しい状況に追い込まれている若手芸術家達。その若手芸術家達へのエールを込め、自画像を置きました。
今の若手芸術家と同じように将来への期待と不安を抱いたであろう巨匠たちが学生時代に書いた自画像。明治、大正、昭和、平成そして令和と、大切に保管されてきた一つ一つの自画像が、「コロナ禍でも、芸術をとめるな。芸術は死なない。」と応援します。前列には青木繁(1882-1911)、萬鉄五郎(1885-1927)、佐伯祐三(1898-1928)ら巨匠の自画像が並びました。
監修:大巻 伸嗣(美術学部教授)、箭内 道彦 (学長特命/美術学部教授)
協力:熊澤 弘(大学美術館准教授)、その他学生、教職員等有志
【平成伎楽団 客席展示】
5世紀頃に江南地域で成立した滑稽な仮面劇「伎楽(ぎがく)」は、「呉楽(くれうたのまい)」とも呼ばれ、シルクロードの匂いを感じさせる非常にコスモポリタンな音楽劇でした。日本には、7世紀に百済から伝来し、平城京の寺院で盛んに催されました。しかし、9世紀になって平安京に長安の文化がもたらされると急速に衰退しましたが、わが国の伝統芸能や民俗芸能にその片鱗を見つけることができます。私は、学生時代に法隆寺宝物館で見た伎楽面に魅了されて以来、いつか伎楽を蘇らせたいと願ってきましたが、 2010年から仮面舞踏団「平成伎楽団」として活動を開始しました。優れた身体表現の演者が乾漆の仮面を被って繰り広げる奔放な舞台は、天平の遺伝子をもった新しい芸能表現として注目されています。京都の茂山家の狂言のほか、藝大邦楽科主催の「和楽の美」でも3回出演させて頂き、好評を博しました。
プロデュース:籔内佐斗司 大学院美術研究科教授
【「マイ・エクササイズ」 ホワイエ展示】
プレイヤーがボタンを押すと「いがぐり坊主」が腹筋運動をし、秋田犬にバフっとめりこむ……、ただそれだけのシンプルなゲームですが、ヴィデオ・ゲームのインタラクションを通じて、作者が追求する、アニメーションというフォーマットでは必ずしも受容者に届くとは限らない「個人的な気持ちよさ」が、プレイヤーとダイレクトに接続されます。
コンセプトとアニメーション:和田 淳(大学院映像研究科修了)
コード:薄羽 涼彌(大学院映像研究科修了)
サポート:Playables(ミヒャエル・フライ& マリオ・フォン・リッケンバッハ)
プロデュース:土居 伸彰(ニューディアー)
【「天までとどけ」 アニメーション】
「北の国から」でさだまさしさんの歌に出会い、それ以来ずっとファンでした。
「天までとどけ」は、出会いの歌、田舎出身の彼と都会の女性が出会い、二人の愛と故郷への思いを歌ってる歌ですが、自身の作品「家族デッキ」という作品がありまして、この歌と思いが重なると感じました。「家族デッキ」の舞台となる理容店や喫茶店、学校はすべて僕の生まれ育った街の風景です。いまはもう喫茶店以外なくなってしまったんですが、ミニチュア模型と映像に変換することで、消えゆく風景を残していけるのではないかと思い制作した作品です。
「天までとどけ」は故郷を思う気持ちや男女の微笑ましい関係に共感しまして「家族デッキ」続編というカタチで制作させていただきました。(村田 朋泰)
作詞・作曲:さだ まさし
監督・制作:村田 朋泰(大学院美術研究科修了)
協力:NHK E テレ「うたテクネ」
番組プロデューサー:倉森 京子(NHK エデュケーショナル)、 岡本 美津子(副学長/大学院映像研究科教授)
【和樹の部屋 特別篇とは】
・7 月 31 日に終了したクラウドファンディングに、ご支援いただいた皆様への感謝を捧げるための「和樹の部屋」。
・新しい日常におけるオフライン演奏会の在り方を、藝大がショーケースとして模索し披露するための「和樹の部屋」。
・コロナ禍におけるオンライン演奏会の在り方を、藝大が初披露するための「和樹の部屋」。
・クラウドファンディングの目標として掲げた「若手芸術家支援」実行の序章として、高らかにスタートを告げるための「和樹の部屋」。
・音楽だけでなく、ステージの上だけでなく、美術、映像の要素も含んだ「オール藝大」を象徴する「和樹の部屋」。
会場写真撮影:進藤綾音